イベントレポート

デジタルファンドレイジング最前線 ―今後のファンドレイジングを左右する鍵とは―【FRJ2017イベントレポート】

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今回は株式会社カルミナの安藤昭太氏によるセッション、『「デジタルファンドレイジング」最前線~最新テクノロジーをファンドレイジングに活用する海外の事例』の様子をレポートします。

講師紹介:株式会社カルミナ 安藤昭太氏

講師を務めた安藤昭太氏は、大学を卒業後、富士通に勤務しながら認定NPO法人かものはしプロジェクトでプロボノとして活動。
その経験から、NPOの志と業務を理解したITエンジニアの少なさを感じ、カルミナ社創設に至ります。

株式会社カルミナは、2015年10月に設立した、日本初のNPO専業システムインテグレーターです。顧客の95%をNPOが占め、いかにNPO向けに特化したIT集団であるかがうかがえます。
※システムインテグレーターとは、簡単に言えば顧客の課題をITの力で解決する企業のことです。

安藤氏は、

カルミナ社はNPO向けの薬剤師のようなものであり、たくさんの薬(=ITツール)に精通し、患者(=NPO)それぞれにあった薬を選んで、その飲み方や飲みやすい方法(=現場での使い方)を教える存在

と仰っていました。

近年、NPO向けのサービス提供事業者が増えており、NPOが利用できるツールは増加傾向にあります。
その多種多様なITツールの中から、最適なツールを選択してくれるのがカルミナ社です。
また、そのツールをそのまま提供するのではなく、その団体の目的に応じて使える状態に整えてくれます。

 

インド人身売買被害者のデータベース事例

セッション冒頭で、カルミナ社が支援した事例として、認定NPO法人かものはしプロジェクトの事例が紹介されました。
かものはしプロジェクトでは、子どもたちが人身売買の被害者となってしまうことを防ぐ取り組みを行っています。

インドでは年間10万人が人身売買の被害にあっています。特に東の貧しい地域で人が攫われ、西のムンバイで売り買いされており、例えムンバイで救助されても、身元の確認や故郷へ送り返すことの困難さが課題でした。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

そこでカルミナ社はCRMや顧客管理で有名なSalesforceを利用して、電子カルテのような人身売買の被害者データベースを作成し、インド全域での情報共有を可能としました。
被害者データベースにより、団体間での情報連携が即座にでき、被害動向や捜査動向の分析に役立っています。

 

これからのファンドレイジングは『データ』が肝

安藤氏は、データの管理、収集、活用ができるNPOとできないNPOで、今後数年間のうちにファンドレイジング格差が生まれると仰いました。
ファンドレイジングで重要となる『マーケティング』と『社会的インパクト評価』は、正確なデータの上に成り立つものだからです。
ITツールが提供されても、そこで扱う正しいデータがなければ活用できません。
過去のデータは収集することができないため、安藤氏は今すぐデータの収集を始めることを勧めていました。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

また、セッションで紹介された海外のデータでは、若い年代ほど寄付のきっかけとしてソーシャルメディアを挙げる傾向にあり、デジタル化が進んでいることが分かりました。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

さらに「50代以上はネットを使わない」というイメージは誤解であるデータも紹介され、これからは全年代において、データを取得しやすい環境にあることが分かります。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

そして肝心のデータを管理するためには、組織の成長スピードに応じて適切なツール、管理方法をとるべきだと仰いました。
例えば寄付者が少ない段階で、高カスタマイズ性のツールを導入しても十分に使いきれません。導入のハードルも高くなります。
寄付者が少ない段階であれば、Excelを用いて管理するほうが、ハードルが低くすぐにはじめられ、コストや操作の慣れに掛かる工数も少なく済みます。
寄付者が多くなってきた段階で、高機能のツールに乗り換えると良いのです。

では、肝心の『データ』はどのように集めればいいのでしょうか。
続いて、オンライン、オフライン問わず、個人や組織のデータを取得するために何が使えるか、何ができるのかが紹介されました。

 

データを収集するために

Google Ad Grants(グーグルアドグランツ)は、GoogleがNPO向けに提供するサービスの1つです。Googleの検索結果画面にテキストの広告を表示させることができます。
広告ですから本来は広告費が掛かるものですが、NPOには毎月10,000ドル分の広告費が助成されるため、無償で広告を配信することができます。
(詳しくは、『【NPO向け広告】Google Ad Grantsで関心の高い支援者を募ろう』をご覧ください)

Google Ad Grantsを利用するメリットとして次の3つが挙げられました。

これまで届かなかった人たちに情報を届けられる
⇒広告の分、露出が増えることで、今よりも多くの人にwebサイトへ訪問してもらえます。

▼SEO対策をせずに、検索結果の上位に表示される
⇒広告は通常の検索結果の上部および下部に表示されます。上部に表示させることができれば、ユーザーの目に留まりやすくなります。

どのキーワード、どの文言が一般層に共感されるのかを調査することができる
⇒広告を表示させたい検索キーワードを指定して広告を配信し、広告テキストのABテストもできるため、どのような検索をしたユーザーに、どのようなワードが刺さるのかを検証することができます。結果をwebサイト上の文言に反映することができます。

 

Facebook広告

地域、年齢、性別、興味関心などでターゲットできる広告として、Facebook広告が紹介されました。Facebook広告では、ユーザーが登録した情報や、web上での行動履歴などを元に広告を配信できます。

 

メールマガジン

昔からあるメールマガジンですが、その重要性がここ数年で上昇していることが紹介されました。
メルマガはオンラインで唯一、個人を特定して情報を届けることができる手法です。

ただ送るだけでなく、「どこの、誰に、どのような内容を送り、どのような結果に至ったか」を分析することが大切です。
また送る内容もパターンを変えてABテストをすることで、より効果の得やすい内容にブラッシュアップするべきです。

セッションでは『Benchmark Email』というメール配信ツールが紹介されました。
無料プランが利用でき、ABテストや効果計測ができます。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

ブログとソーシャルメディア(SNS)

思っているほどに一般の方、特に潜在的な寄付者は、団体やその活動を意識して見ていることはありません。
だからと言って、ブログやSNSでの情報発信を怠ってしまうと何も伝わりませんので、地道に続けていくことが必要です。
ブログやSNSもまた、データを取得するための土壌となります。

 

「Google  Ad Grants」と「Facebook広告」のようなオンライン広告を利用する上で大切にすべきこととして、次の2点が挙げられました。

広告からいきなり寄付ページにつなげないこと
⇒寄付をする理由付けをページ内に用意し、「なぜ寄付をするのか、なぜ今寄付をするのか、なぜこの団体で寄付をするのか、寄付をすることで何がどう変わるのか」という点を納得させる必要があります。

寄付以外にイベント参加やメルマガ登録など他の選択肢も用意すること
⇒『寄付する』/『寄付しない』の二者択一では、『寄付しない』を選択した人と以降接触する機会がなくなってしまうかもしれません。イベント参加やメルマガ登録を促すことで、それ以降も接触を続けることができ、理解を深めてもらうことで寄付する意思が育つ可能性があります。

 

取得したデータを活用するために

データを集めただけでは結果に繋がりません。
安藤氏は次に、取得したデータをどのように活かすか、活かすためには何が必要か説明されました。

 

マーケティングオートメーション

寄付者は団体の存在を知ったときから寄付に至るまで、一貫して同じ気持ちをもっているのでしょうか。
寄付者の気持ちは、寄付者の行動、アクションまでの各フェーズにより移ろうものです。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

マーケティングオートメーションでは、各フェーズの寄付者の関心度合に応じた広告やメルマガ配信が可能となります。
相手の気持ちに沿ったマーケティング施策が可能となります。

 

webサイトのスマートフォン対応

年々スマートフォンでの検索が増え、今ではスマートフォンからの検索がPCからの検索を追い抜いています。
ある若年性ガンの支援団体が取り上げられた際、webサイトの流入が増加しました。その85%がスマートフォンからのアクセスだったそうです。

もしwebサイトがスマートフォン対応されていなかったら、寄付をしようとした人が、ページの操作性の悪さにより寄付を中断してしまう恐れがあります。
安藤氏は以上のことから、まだスマートフォン対応をしていない場合は、すぐにスマートフォン対応をすることをおすすめしていました。

 

ランディングページ(LP)

ランディングページ(LP)とは、広告をクリックした先のページのことです。
セッションではランディングページを作るツールとして『ペライチ』が紹介されました。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

ペライチは、専門的なweb制作の知識やデザインの知識がなくても、誰でも早く簡単にランディングページを作ることができるツールです。修正も簡単で、掲載情報を最新情報に切り替えるのもすぐです。
制作会社に依頼した場合に掛かる費用や時間を削減できます。

さらにペライチは、通常は有料プランで提供している内容をNPO向けに無償提供しています。
ペライチとGoogle Ad Grantsを併用することで、費用をかけずにデータを収集することができ、また、集めたデータをランディングページに掲載する文言に反映させて、効果を改善することもできます

 

動画

米国の調査結果では、検索数の多さでGoogle検索についで多いのがYouTube上での検索であることが分かっています。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

安藤氏は、NPOの運営において『透明性』と『共感』が非常に重要であることに触れた上で、その両者を伝えるために動画を撮ることを勧めていました。
共感を得るストーリーのある動画や、日々の活動が伝わる動画が望ましいとのことです。

Googleも非営利団体向けに『YouTube Nonprofit Program』を提供したり、動画撮影用のスタジオ提供をしたりしています。

広告やwebサイトの解析により判明した、支援者に刺さるワードをテーマに動画を作成し、webサイト上に載せることで、寄付をしようとするユーザーの背中を一押しできます。

 

新しいデジタルファンドレイジングの傾向

ファンドレイジングで利用されている新しい技術が事例を交えて紹介されました。

 

VR(仮想現実)/AR(拡張現実)

ファンドレイジングでは共感が大切であるため、圧倒的な没入感のあるVRを用いて、共感を生み出すことができます。

VRがファンドレイジングで利用された例に、国連の仮想現実プログラムが紹介されました。
クウェートのファンドレイジングイベントにおいて、現地の映像をVRで見せることで、結果38億ドルの寄付金が集まったのです。

出典:カルミナ社セッション資料より

 

ビットコイン

安藤氏はまず、「ビットコイン=怪しい、危険なもの」と認識している人もいますが、ビットコイン自体は怪しいものではなく、その存在を悪用している人がいるだけだと説明されました。
むしろビットコインを利用することで、小額の寄付でも日本から海外の団体へ直接送金が可能となり、送金手数料も数十円程度と安く、リアルタイムで送金ができます。
2017年1月には、ビットコインを用いた寄付サイト『KIZUNA』がローンチされました。

出典:カルミナ社セッション資料より

IoT(Internet of Things)

IoTとはモノとインターネットがつながり、相互に制御ができる仕組みのことです。
Amazonの『Amazon Dash Button』はこのIoTを利用しており、webサイトに行くことなく、ボタンを押すだけで商品の注文ができます。

このAmazon Dash Buttonを利用した例として、『ACLU寄付ボタン』が紹介されました。
トランプ政権の排外的な政策に反発したエンジニアが作成し、ボタンを押すことでアメリカ自由人権協会(ACLU)に5ドル寄付される仕組みです。
トランプ政権が排外的な政策を打ち出したニュースが流れるたびに、ボタンを押して溜飲を下げるのです。

 

まとめ:主役は『ひと』

安藤氏は最後に、「デジタル時代は『ひと』こそ最優先すべきである」と仰っていました。
テクノロジーを取り入れさえすれば目的が達成されるわけではなく、「その技術で何を解決したいのか、効果はあるのか、他に最適な方法はないのか」を考えなければなりません。
テクノロジーはあくまでツールであり、それを使いこなす側とその恩恵を受ける側、つまり『ひと』なくしては、どんなすばらしいテクノロジーも意味を成さないものになってしまいます。

今回のセッションでは、適切なツールを使いこなしてデータ扱うことが、ファンドレイジングを成功させる鍵になってくることが分かりました。
多くのツールに精通したカルミナ社であるからこそ、多くの最新技術や事例にも精通しており、短い時間に内容がギュッと凝縮したセッションです。

また、安藤氏は「多くの会員が活動を支えているNPOではデジタル化が進んでいる一方、助成金に大きく頼ったNPOではデジタル化があまり進んでいない」と仰っていました。
非営利の世界でデジタル化を進める必要性が、まだまだあるようですね。

今回のセッションの資料は『FRJ2017 デジタルファンドレイジング最前線 セッション発表資料』より閲覧することができます。
興味を持った方、デジタル化を進めたい方は、ぜひ目を通しておくことをおすすめします。

 

※本記事は、セッション講師から許可を得て、執筆・公開しております。

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